Rabbit Blue

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誘惑




「雪男ー、飯出来たぞ」
 ゆらゆらと揺らされ、雪男はうっすらと目を開ける。
「お前が朝ゆっくりなんて珍しいな。ほら、眼鏡」
 寝起きのせいか、少しボーっとした様子の雪男に燐は眼鏡を差し出した。
「ありがとう、兄さ……って、なに、その格好…?!」
 差し出された眼鏡をかけ、礼を告げながら燐の方向へ視線を向け、雪男は驚きに声を上げた。
「何、って普通だろ? 料理するときはエプロンしねぇとな!」
「そうじゃなくって、その下! なんで服を着てないんだっ!」
 朝っぱらから裸エプロンとか誘ってるの?襲われたいのか!ってか、誰もいないとはいえ、無防備すぎるよ兄さん!と 内心で叫ぶ。
「だって、夏場の厨房あっちぃじゃん。大丈夫だって、パンツははいてるから」
「そこは穿いてるのかよ!」
 あっけらかんと笑って返ってきた言葉に思わず声に出して突っ込んでしまった。
 口に出してからハッと気付いて口元を押さえるが、時既に遅し。
 ニヤついた燐が雪男に顔を寄せてきた。
「雪男は何を期待してたのかなー?」
「う、うるさいっ! ほら、退いてよ。朝ごはん出来てるんだろう?」
 唇が触れそうなぐらいに近付いてくる燐を押し返しながら、話を変えようとするが、燐はぴくりとも動かない。
「顔真っ赤にしちゃって。お前も男の子だもんな」
 つつ、と服の上から胸元をなぞられ、雪男の身体が跳ねる。そして、ゆっくりと燐の顔が更に近付き、 唇が重なろうとしたその瞬間――



 ピピピピピピピピピ……



 鳴り響く目覚まし時計の音で目が覚めた。
 ガバッ、と飛び起きた雪男は少し乱れた呼吸を整え、目覚まし時計のスイッチを切る。
「――夢、か…」
 残念なような、助かったような複雑な気持ちで眼鏡をかけて、燐のベッドを見ると、 いつものように腹を出して眠っている姿が目に入った。
 そんな燐に大きな溜め息をつくと、雪男はベッドを降りる。
「ったく、兄さんは夢魔かなんかじゃないの……」
 気持ち良さそうに寝ている燐の傍まで行くと、むぎゅりとその鼻を摘まんでやる。 むずがり眉間に皺を寄せた燐の唇に触れるだけの口付けを落とし、雪男は顔を洗うために部屋を出るのだった。





終わる。