Rabbit Blue

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ゆらゆら揺れる魅惑の、




「ぎゃっ」
 短く声をあげ、燐が立ち上がる。
 朗々と教科書を読み上げていた雪男が、何をしているの、と言いたげに顔をしかめ、眼鏡を押し上げた。
「奥村くん、どうしました」
「い、いや、なんでもねぇ……」
「なら座って。続けます」
 反論を許さぬ雰囲気をまとう雪男に燐は唇を尖らせながらも席につく。
 そして、雪男に気づかれないように振り返り、ななめ後ろに座っていた廉造に恨めしげな視線を送れば、両手を顔の前に合わせて謝られた。
 しょうがねぇな、と燐は気持ちを切り替えると視線を教科書に落とす。
 まだ心臓がバクバクとしていた。
 隠すことをしなくなった尻尾をしゅるりと身体に巻きつける。
 なんとなくほっとした。
 尻尾は悪魔の急所の一つらしい。雪男になるべく隠した方がいい、と言われたのを思い出す。
 急に握られると、びっくりする。一瞬だったせいか、痛い、とかは思わなかったが、尻尾に取り付けられたリングを締め付けられれば、意識だって失う。
 暫く身体に力が入らなくなるのも、京都の一件でわかっていた。
 これからは気をつけたほうがいいのかもしれない、と燐は溜息をつくのだった。


「ごめんなぁ、奥村くん。あないに驚くとは思わへんかったわ」
 授業が終わり、身体を伸ばすと廉造が声をかけてきた。
「あー、もう急に握んじゃねぇぞ!」
「いやぁ、いっつも動いてるからつい気になって」
「ついじゃねぇよ……」
 ほんま、堪忍やわ、とすまなさそうにする廉造に、溜め息混じりに呟けば、奥村くん、と雪男の声がする。
 視線をそちらに向ければ、手招きされる。どうせまたネチネチ言われるのだろうと思うと、気が重いが行かない訳にもいかない。
「何だよ…」
 雪男の前まで移動して、そう尋ねれば、はぁ、と溜め息が落とされる。
「だから言ったでしょう? わざわざ隠したくないのもわかるけど、無防備なのはダメだって」
 弱点の自覚あるの?と続いた言葉に、燐は視線を下に落とし、うるせぇ、と小さく返した。
「今度から触られないように気をつけてよね」
 そう告げながら雪男はひょい、と燐の尻尾を軽く持ち上げ、逆撫でするように指を滑らせる。
 その瞬間、ぞくっと背中に悪寒が走り、燐は慌てて雪男の手から尻尾を避難させた。
 驚いた表情で固まる燐にクスリと笑みを浮かべて、雪男はそれじゃ、と教室を後にする。

 その後、暫く警戒するように尻尾を気にしていた燐だったが、数日後には再び無防備に尻尾を揺らしているのであった。




 終われ。