Rabbit Blue

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紫煙




 屋上の柵に身体を預け、ふぅ、と肺まで吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出す。
 吐き出した煙は風に紛れて直ぐに消えた。

 煙草を覚えたのは数年前。
 初めは興味本位だった。
 むしゃくしゃして、自分の感情がうまく処理できなくて、気分転換になればと思った。
 当然最初はうまく吸えなくて、ただ噎せるばかりで。
 それがいつしか味わえるほどにまでになり、吸うことが当たり前の習慣になってしまった。
 いけないことをしている自覚はあった。身体によくないこともわかっている。
 それでもやめられなかった。

 助けたい想いと、必ずしも助けられるとは限らない現実。

 救えなかった者の家族に責められることもあった。
 割り切らないとやっていけなかった。



 *****



「雪男ー?」
 ギィ、と軋んだ音と同時に声が掛かる。
 短くなった煙草を手摺りに押し付け、火を消すと吸殻をポケットに押し込んだ。
「何、兄さん」
 平静を装いながら身体を起こすと、飯出来たぞ、と告げながら近寄ってくる。
「わかった。今日の夕飯は?」
「んー……?」
 雪男の問いに答えず、訝しげに雪男を見回す燐に、雪男はバレたかな、と内心慌てた。
 風が強い場所を選んでいたとはいえ、匂いがうつっていないとは限らない。
 雪男の胸倉を掴んで引き寄せたかと思えば、こつん、と額をあわせてきた燐に僅かに身体が跳ねた。
「雪男、お前疲れてるだろ。今日は早めに寝たほうがいいぞ」
「あぁ、そう、だね……そうするよ」
 バレた訳ではなさそうだ、とほっと安堵して燐の言葉に同意する。
 だが、胸倉を掴む燐の手は離れることなく、兄さん?と声をかければ、ムッと眉間に皺を寄せた燐に唇を塞がれた。
 突然のことに驚いてるうちに、唇は離れる。
「まっじ……。お前、ソレも止めとけよ」
 口の中に残っていた煙草の味に、燐は顔を顰めた。
 煙草味のキスとか勘弁して欲しいぜ……、そう溜め息混じりに燐が呟く。
「……自分からしてきたくせに」
「うっせ。飯、冷めっから行くぞ」
 すたすたと歩き始める燐の後ろをついていきながら、燐のたった一言で禁煙しようかな、と思う自分に思わず苦笑を浮かべるのだった。