Rabbit Blue

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兄さんとエプロンと割烹着





「あー…このエプロンももうダメだな」
 今まで使っていた水色のエプロンを広げながら、燐が呟く。
 紐の部分がちょうど破けてしまったのだ。
 コレじゃ使えねぇな、と溜め息をつく。今から買いに行くのも面倒だな、と辺りをキョロキョロと見回せば、 先日ウコバクの代理として料理を作っていたメフィストが使っていた割烹着が目に入った。
 これでいいか、と割烹着を身につけ、夕飯の支度を始める。
 ちなみに、本日ウコバクはメフィストの元に戻っているため、燐が食事の準備をしているのだ。

 そうして、食事の支度が終わる頃、ただいま、と雪男が食堂に顔を出す。
「おー、お帰り。丁度飯出来たぞ」
 皿に盛り付けたものをトレーに乗せ、カウンターに置きながら、雪男を出迎えると、雪男が驚いた表情で持っていた鞄を落とした。
「雪男? お前、何そんなに驚いてんだ?」
「兄さん! その割烹着は?!」
「あぁ、エプロン破けちまったから、メフィストが使ってたヤツ借りた」
 何そんなに驚いてるんだ?と燐が首を傾げる。
「そんなフェレス卿の使ったヤツより、僕が前に用意したヤツあっただろ…!」
「そういえば、そんなのもあったな」
 忘れてたぜ、なんていいながら、燐は近くの棚にしまいこんでいたエプロンを取り出した。
「これだろ? しっかし、雪男。コレ、ヒラヒラしすぎじゃないか?」
 取り出したエプロンを広げながら、不服そうに唇を尖らせる。
「そんなことないよ。最近のエプロンはみんなそんなものだよ」
 キラリと眼鏡を光らせて、そう告げる雪男の言葉はどうも胡散臭い。 やらたとフリルで飾られたピンク色のエプロンはどうみても女物だ。
 自分が身につけても気持ち悪いだけじゃないのか、と思うのだが、雪男は絶対兄さんに似合うよ!と息巻いている。
 お前、頭大丈夫か?とツッコむのも面倒だ。
「兄さんに使って欲しくて買ってきたんだから、使ってよ」
 そこまで言われると、使わない、と突っぱねるのも申し訳ない気がして、燐はわかった、と渋々頷く。
「じゃあ、次からはコレ使うな。とりあえず飯にしようぜ。冷めちまう」
 さっさと話を逸らそう、と燐は身に纏っていた割烹着を脱ぎ、食堂の方へ出るとトレーを運ぶのだった。