Rabbit Blue

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誰にも渡さない




 燐が駆けつけた時、雪男は膝をつき放心状態だった。
 傍らに立つ男――確か藤堂と言っただろうか――に向かって、倶利加羅を振り抜く。
 しかし、それは容易に避けられる。だが、それでよかった。
 とにかく雪男から離れさせるのが目的だ。
 二人の間に立ち、倶利加羅を構える。
「――あと少しだったのに残念だ。しかし、少し登場が遅かったかもね。雪男くんが落ちるのも時間の問題だ。
 君に彼が救えるかな?」

 ゆらりと藤堂の姿が揺らめいたかと思えば、その場から姿を消した。
 舌打ちをして、燐は雪男の様子を窺う。
「雪男?」
 声をかけても反応がない。
 呼吸は浅く、虚ろな瞳。このままでは、藤堂のいう通り悪魔落ちしてしまうのではないだろうか。
 雪男までそんなことになってしまったら、どうしたらいい。雪男まで命を狙われることになったら。こんな思いは自分だけでいいのだ。
 雪男には人のままでいてほしい。

  「雪男…っ!」
 ぱんっ、と乾いた音が響く。
「しっかりしろ……! お前がそんなんでどうする! ジジイの分まで俺を守るんだろ?! お前までいなくなったら俺は……っ」
 言葉がうまく続かない。
 もうダメなのだろうか。このまま雪男が落ちるのを黙ってみていることしか出来ないんだろうか。
「雪男……っ」
 くたりと力の抜けていた身体がぴくりと動いた。
 ゆっくりと瞬きをする。
「兄さん……?」
 虚ろだった瞳がはっきりと自分を捉えた。
 それが嬉しくて、燐は雪男を抱き締める。
 腕の中で雪男が驚いているが、構わなかった。

 自分が人間であった証。
 ただ一人の弟。

 守るのだ。

 誰にも渡したりなどしない。