Rabbit Blue
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僕だけが
「奥村燐くん?」
「あ…?」
「ちょうど良かった。探してたの」
「俺を?」
「そう。コレを雪男くんに渡して欲しいの」
差し出されたのは一通の手紙。恐らくラブレターとかだろう。
そういった手紙を雪男に渡して欲しい、と頼まれることは初めてではなかった。
だが、ソレを受け取ってくるのを雪男はいい顔をしない。
「こういうのは自分で渡した方がいいぜ」
そう言って返そうとしたら、違うの、と拒否された。
「告白とかじゃないからいいの。それに、燐くんの手から渡してくれないと意味ないんだよね。
宣戦布告だから」
「?」
目の前の女生徒の言葉の意味が判らなくて首を傾げるが、女生徒は笑みを浮かべるだけで。
「じゃあ、よろしくね」
ひらひらと手を振ってその場を離れる女生徒に燐はただ首を傾げるのだった。
*****
「ほい」
寮の部屋に戻ってきた雪男に燐は女生徒から預かった手紙を差し出す。
「なにこれ」
「お前に渡せって預かった」
手紙をみた途端、ムッと眉間に皺を寄せた雪男に、燐はやっぱり怒ったか、と内心で溜息をついた。
「兄さん、そういうのは受け取ってこないで、って言っただろ」
「自分で渡せって言ったけど、俺からじゃないと意味がないって言ってたぞ。
あと告白じゃなくて、センセイフコク?とか」
「それって宣戦布告のこと?
今回はもういいけど、今度から受け取ってこないで。あと、その人には気をつけてね」
「わかったって。っつか、何に気をつけるんだ?」
普通に可愛い子だったぞ、と続いた言葉に、雪男の眉間に刻まれた皺が増える。
「兄さんは本当に無防備だよね」
「うっせぇな!」
俺のどこが無防備だってんだ、とブツブツ愚痴る燐に溜息をつきつつ、雪男は渡された手紙の封を開ける。
中に入っていた便箋には一言、
燐くんとの邪魔をしないで
と綴られていた。
予想通りとも言うべき内容に、雪男はその手紙を握りつぶす。
中学時代は乱暴さが目立っていたし、ろくに学校も行っていなかったおかげか、燐を気にかけるものなどいなかった。
しかし、この学園に入ってから、燐は変わった。塾を通して、友と呼べる者が出来た。それ自体はいいことだと思う。
だが、それによって乱暴さだけでなく、燐が持つ優しさに気付く者が増え始めた。
この手紙の送り主もそう。
せめてもの救いは、燐が自分に向けられる好意にまったく気づいていないということだ。
これから先が思いやられるな、と思いながら雪男は黙々と今後の対策を練り始めるのだった。
――兄さんの優しさも可愛さも全部、僕だけが知っていればいい。