Rabbit Blue
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アニメ11話からの派生妄想
昼間にあったかもしれない会話の妄想。
「奥村くんは泳がへんの?」
燐が無心にイカを焼いていると、海から上がった廉造にそう尋ねられる。
「あ? ……あー、いいよ。俺は。水着持ってきてねぇし」
「せっかくの海やのに、もったいない」
「雪男のヤツが、人の荷物チェックしやがってよ。水着没収されたんだよ。兄さんは任務でいくんでしょ、って。ホント、母ちゃんかっての」
ぶつくさと燐は文句を言うが、本当の理由はそれではない。
今回の任務に同行している廉造や出雲は燐が魔神の落胤であることは知らないのだ。
尻尾を見られるわけにはいかない。
雪男にも散々気をつけろ、と念を押されている。
クロを今回同行させたのも、万が一に備えてのことだ。
廉造たちの前で倶利加羅を抜くわけにはいかない。そんなことをしてしまえば、自分という存在がなんなのか、わかってしまう。
それだけは避けたかった。
「あー、さすがセンセ。真面目やわ。奥村くんも大変やね」
「そーなんだよ。こないだもさ――」
話を逸らすように、そのまま日頃たまった鬱憤を愚痴り始めた燐に、苦笑を浮かべ、廉造は適当に話を聞き流すのだった。
夜にこんなことがあったらいいな、の妄想
寝付けなくて、そっと宿を抜け出し、燐は一人浜辺を歩いていた。
昼間は賑わっていた海水浴場も、日付が変わった今ではすっかり静まりかえっている。
誰もいない海岸に、燐は履いていたサンダルを脱ぎ、波打ち際に近付く。
打ち寄せる波が足を濡らしていく。冷たくて気持ちが良かった。
幼い頃、神父さんに連れられて、雪男と海で遊んだことが少し、懐かしい。
こんな身体になってしまった以上、今後そういうこともあまり出来ないのだろう。
そう思うと、酷く悲しくなった。
暗いくらい海は吸い込まれそうで、ざぶざぶと膝が浸かる深さまで進む。
そのまま月明かりに照らされた海を眺めていると、りーん!とクロの声と共に身体が海に吹っ飛ばされた。
「テメ、何すんだ!」
海水飲んじまった…!と咳き込みながらぶつかってきた大きく変化したクロに文句をいえば、クロと一緒にいたらしい廉造にまぁまぁ、と窘められる。
「クロは奥村くんがおらんで心配しとったんよ。せやからあんま怒らんといたってや」
『そうだぞ! あそびにいくならおれもさそえよ』
廉造に続いてにゃーにゃー喋るクロに、燐は悪ィ、と小さく謝った。
「宿の風呂ってまだ使えたっけ……」
「どうやろねぇ。そこの公衆シャワーやったら使えるんとちゃうかな」
海の家に隣接された海水浴客用の無料で使える簡易シャワーボックスを指差す廉造に、行ってみるか、と燐は脱いだサンダルを拾う。
「クロ、置いてくぞ」
波打ち際にいたのだろう、カニとにらみ合っているクロにそう声をかけ、燐は簡易シャワーボックスに向かって歩き出した。
少し離れ、燐の後ろをついていきながら、廉造は先程の燐の姿を思い出す。
そのまま海に消えてしまいそうな儚い背中は、普段の明るい彼からはとても想像できないものだった。
双子の弟が祓魔師であることを知らなかったことを考えれば、きっと、彼はこんな世界とは無縁の生活をしていたはずで。
何らかの事情で、祓魔師を目指すようになった。
自分では想像もつかないような色々なモノを背負っているのだろう。
そんな彼にふと実家の兄を思い出した。
『弟』として、自分には何が出来るんだろうか、と考えた自分に廉造はないわぁ、と呟く。
なにがだ?と振り返る燐に、なんでもありませんわ、と誤魔化すのだった。