Rabbit Blue

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悪夢




 赤に染まる手。
 目の前には血に濡れ、横たわる兄の姿。

「に、いさん…?」

 身体を揺らす。ピクリともしない身体は、ひどく冷たかった。
 重症とも言えるような傷を負おうと、驚異的な早さで回復をしていた兄が動かないなど考えたくもない。
「ねぇ、兄さん」
 なおも身体を揺らせば、ぼろリと兄さんの身体が崩れた。
 一度崩れた身体は、そこから広がるように崩れていく。
「ぁ……あ……」
 あっという間に崩れた身体は、風によって宙に舞う。
 守ると誓ったはずの兄がいなくなってしまった。
 自分に残されたたった一人の家族。
 兄を守るために強くなった。
 それなのに、兄を守れなかった。


 慟哭。


 心が闇に支配される、そう感じたその時――



「雪男っ!」
 ばちん、と頬に痛みが走る。
 ハッと目を冷ますと、心配そうに顔を覗き込んでいる兄と目が合った。
「大丈夫か? すっげぇ、うなされてたけど…」
 そう尋ねてくるのをぼんやりと聞きながら腕をあげ、雪男は燐の頬に触れる。
 暖かな頬に、強ばっていた身体から力が抜ける。不思議そうにしている燐を抱き寄せると、そのまま無言で抱き返してくれた。


 規則正しく聞こえる鼓動にひどく安心したのか、雪男が小さく寝息をたて始めると、燐は雪男を起こさないようにしながらそっと布団に潜り込む。
 額や目尻に唇を落とすと、燐も目を閉じるのだった。